相続土地国庫帰属制度は農地にも使えるのか

相続土地国庫帰属制度は農地にも使えるのか

売ることも貸すことも難しい農地を、国に引き取ってもらえないだろうか。相続土地国庫帰属制度が農地に使えるのかを知りたい方に向けて整理しました。

農地も相続土地国庫帰属制度の対象です。 ただし、対象になることと承認されることは別で、要件を満たす必要があります。

費用で見落とされやすいのが負担金です。農地(田・畑)は原則として面積にかかわらず20万円ですが、農用地区域内などにある農地は面積に応じた算定になります。 面積が大きいほど負担金も増えます。

まず、自分の農地が農用地区域内かを確認してください。 参考として、eMAFF農地ナビに公表されている横浜市の農地32,259筆では、35.0%(11,283筆)が農用地区域内(青地)でした(2026年8月13日取得。市街化区域内の農地は非公表のため含まれず、全国の割合を示すものではありません)。 面積・区別・地目の内訳はeMAFF公表分32,259筆の集計にまとめています。 青地・白地の違いと除外の要件は農地の「青地」「白地」とはで整理しています。

目次

どういう制度か

相続土地国庫帰属制度は、2023年4月27日に開始された制度です。相続または相続人に対する遺贈によって土地を取得した方が、一定の要件を満たし所定の費用を納めることで、その土地の所有権を国に帰属させることができます。

売却も貸付も難しい土地を、次の世代に負担として引き継がせないための仕組みとして設けられました。

注意したい点として、対象になるのは相続または相続人に対する遺贈で取得した土地です。相続人ではない第三者が遺贈を受けた場合や、売買で取得した土地まで広く対象になるわけではありません。

農地も対象になります

田や畑といった農地も、制度の対象です。農地だからという理由だけで一律に除外されることはありません。

ただし、対象になることと、実際に承認されることは別です。後述する要件を満たす必要があり、申請すれば必ず引き取ってもらえるわけではありません。

なお、土地が複数人の共有になっている場合には、共有者全員が共同して申請する必要があります。 兄弟で共有しているケースでは、この点が最初のハードルになることがあります。

引き取ってもらえない土地の条件

法務省が公表している内容によると、次のような土地は却下または不承認となることがあります。

相続土地国庫帰属制度で引き取ってもらえない土地の条件を示した図。建物等(建物がある土地)、権利関係(担保権や使用収益を目的とする権利が設定されている土地)、有体物(工作物・車両・樹木その他の有体物が地上に存する土地)、境界(境界が明らかでない土地、所有権に争いがある土地)、管理コスト(通常の管理または処分に過分の費用または労力を要する土地)
区分主な内容
建物等建物がある土地
権利関係担保権や使用収益を目的とする権利が設定されている土地
有体物通常の管理または処分を阻害する工作物・車両・樹木その他の有体物が地上に存する土地
境界境界が明らかでない土地、所有権の存否や範囲について争いがある土地
管理コスト通常の管理または処分にあたり過分の費用または労力を要する土地

この表のうち、農地で確認しておきたいのは有体物と境界の2項目です。 使わなくなった農機具や資材が残っていないか、境界標が確認できるかを、申請を考える段階で見ておいてください。

境界標が見当たらない、隣地所有者と連絡が取れない、境界の認識が一致しない、といった場合には、まず申請先の法務局や土地家屋調査士に相談し、どのような資料や対応が必要かを確認することになります。状況によっては測量や筆界特定制度の利用を検討します。

費用の考え方

費用は2段階に分かれます。

審査手数料 — 土地1筆あたり14,000円です(2026年8月13日確認)。審査の結果、却下や不承認となった場合でも返還されません。申請するかどうかを検討する段階で、この点は押さえておく必要があります。

負担金 — 承認された場合に納付します。農地(田・畑)は原則として面積にかかわらず20万円です(2026年8月13日確認)。

ただし、次の区域内にある農地については、面積に応じた算定になります。

  1. 都市計画法の市街化区域、または用途地域が指定されている地域内の農地
  2. 農業振興地域の整備に関する法律の農用地区域内の農地
  3. 土地改良事業等の施行区域内の農地

2に当たるかどうかを先に確認してください。 当サイトでeMAFF農地ナビの公表データ(横浜市内 32,259筆)を集計したところ、農用地区域内(青地)が35.0%、設定なしが65.0%でした。公表されている農地のうち、およそ3件に1件がこの例外に当たり得ます。

同じ集計では、1筆あたりの面積の中央値は462㎡(約140坪)でした。面積に応じた算定になる場合、負担金の見通しはこの規模感が出発点になります。

集計は公表分に限られ、市街化区域内の農地は含まれません(出典:eMAFF農地ナビ 公表データ、2026年8月13日取得)。ご自身の農地の区分はeMAFF農地ナビまたは管轄の農政事務所で確認できます。調べ方は自分の農地の地番・場所が分からないときの調べ方をご覧ください。

「無料で国に引き取ってもらえる制度」ではないという点は、正確に理解しておく必要があります。個別の土地について負担金がいくらになるかは、面積や区域によって変わるため、法務局にご確認ください。

実際にどれだけ通っているか

法務省は制度の運用状況を公表しています。令和8年6月30日現在の速報値は次のとおりです。

区分件数
申請件数(総数)5,698件
うち田・畑2,226件
帰属件数(総数)2,885件
うち農用地925件
却下83件
不承認93件
取下げ1,063件

出典:法務省「相続土地国庫帰属制度の統計」(令和8年7月16日公表、令和8年6月30日現在の速報値)

申請件数の地目別内訳(件)
田・畑
2,226件
宅地
1,973件
山林
868件
その他
631件
申請5,698件の内訳です。最も多いのが田・畑でした。 出典:法務省「相続土地国庫帰属制度の統計」(令和8年7月16日公表、令和8年6月30日現在の速報値)

申請の地目別で最も多いのが田・畑です。 農地だから使えない制度ではないことが、件数からも分かります。

なお申請は「地目別」、帰属は「種目別」と分類が異なるため、田・畑2,226件のうち何件が帰属したかを単純に計算することはできません。

却下・不承認の理由に、農地でつまずきやすい項目があります

却下83件のうち21件が「境界が明らかでない土地」でした。添付書類の不提出(37件)に次いで多い理由です。

不承認93件のうち45件が「土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地」でした。不承認理由の中で最多です。

なおこの件数は地目を問わない全体の集計であり、農地に限った内訳ではありません。ただし境界と地上の有体物という2点が、却下・不承認の理由として上位に挙がっていることは、申請前の確認事項を考えるうえで参考になります。

取下げの内訳が示すもの

取下げ1,063件のうち、562件は「有効活用の見込みが生じた」ことが理由でした。法務省はその例として次を挙げています。

  • 自治体や国の機関による土地の有効活用が決定した
  • 隣接地所有者から土地の引き受けの申出があった
  • 農業委員会の調整等により農地として活用される見込みとなった

申請を検討する過程で、別の出口が見つかることがあるということです。国庫帰属だけを目標にせず、貸付や近隣への譲渡も並行して確認する意味がここにあります。貸す方向は農地を貸したいときの選択肢と手順をご覧ください。

申請から承認までの流れ

相続土地国庫帰属制度の申請は、おおまかに次の順で進みます。

相続土地国庫帰属制度の申請から承認までの流れ6段階を示した図。1.事前相談、2.申請、3.書面審査・実地調査、4.承認・不承認の通知、5.負担金の納付、6.国庫帰属
  1. 事前相談 — 法務局(本局)の相談窓口で、対象となりうるかを相談します
  2. 申請 — 承認申請書と添付書類を提出し、審査手数料を納付します
  3. 書面審査・実地調査 — 要件に該当しないかが調べられます
  4. 承認・不承認の通知
  5. 負担金の納付 — 承認された場合、通知に従って納付します
  6. 国庫帰属 — 納付をもって所有権が国に移ります

申請人と登記名義人が異なる場合は、相続を証する書面の添付が求められます。 名義が亡くなった方のままでも申請できる場合がありますが、必要書類は増えます。相続登記は2024年4月1日から義務化されており、手続きの流れは農地の相続で名義変更(相続登記)を進める手順で整理しています。

統計は法務省が毎月更新しています。 件数は上の「実際にどれだけ通っているか」で整理していますが、検討される際は最新の公表値をご確認ください。

この制度が使えない場合

要件を満たさない、費用や手間が見合わない、という場合には他の方向があります。

  • 農地のまま貸す・売る — 買主・借主に農地法第3条の許可要件がありますが、周辺に耕作者がいる場合には検討できるケースがあります
  • 転用して活用する — 区域と農地区分によって可否が変わります
  • 管理の負担だけ下げる — 方針が決まるまで、草刈りなどを委託する方法があります 条文の全体像は農地法とは|3条・4条・5条の違いで整理しています。

手放す方向全体の整理は相続した農地が「いらない」と感じたときの選択肢で、市街化調整区域の農地については市街化調整区域の農地を手放したいと考えたときに確認することでそれぞれ整理しています。

相続放棄との違いを知りたい場合は、農地の相続放棄を考える前に知っておきたいこともあわせてご覧ください。

まとめ

農地も相続土地国庫帰属制度の対象ですが、境界の明確さ、残置物の有無、共有者の同意、費用といった条件があります。法務省の統計では、取下げ1,063件のうち562件が「有効活用の見込みが生じた」を理由としています(2026年8月13日確認)。

まずは、ご自身の土地がどの状態にあるかを把握するところからになります。相続後の全体の流れは農地を相続された方へで整理しています。

制度が使える状態かどうか、まず土地の条件を整理します

名義・境界・現況・共有関係について、いまわかっていることと追加で確認すべきことを無料で整理してお伝えします。

お電話でのご相談: 03-6869-4326(受付 平日10:00〜17:00)

本記事は制度の一般的な内容をご説明するものです。制度は改正される場合があり、統計値は法務省が随時更新しています。個別の土地が要件を満たすかどうか、負担金がいくらになるかは法務局にご確認ください。登記申請は司法書士、測量・境界確定は土地家屋調査士が担当します。当サイトはこれらの手続きを代理するものではありません。記載内容は2026年8月時点の情報に基づきます。

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この記事を書いた人

横浜市周辺の農地・市街化調整区域の土地について、国や自治体が公表している情報をもとに、所有者の方がまず確認すべきことを整理して発信しています。登記・許認可・測量・税務・売買の各手続きは、それぞれの分野の専門家と連携して進めます。

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