耕作されていない農地には、農業委員会による調査が毎年行われます。 農地法30条の利用状況調査で耕作されていないと判断されると、32条の利用意向調査へ進み、状況が改善しなければ農地中間管理機構との協議を勧告されることがあります。
勧告を受けたまま翌年1月1日を迎えると、農業振興地域内の農地は固定資産税の評価がおよそ1.8倍になります。
対策の方向は、自分で管理を続ける・貸す・転用する・手放すの4つです。この記事では、それぞれのハードルと、まず何を確認するかを整理します。
統計の話ではなく、自分の土地の話として
「耕作放棄地」という言葉は、社会問題として語られることが多くあります。ただ、実際にその土地を所有している人にとっては、社会問題ではなく毎年の負担です。
草が伸び、近隣から連絡が入り、年に何度か刈りに行く。固定資産税は変わらず払い、使う予定は決まらないまま一年が過ぎる。そうした状態が続いている場合、次に何が起きるかを知っておく意味があります。
ここでは統計の解説ではなく、所有者としてどう動けるかを整理します。
放置が続くと起きること
近隣とのトラブル草木が伸びて隣地へ越境する、害虫が発生する、見通しが悪くなる、不法投棄の場所になる。いずれも近隣からの申し出につながります。自治体によっては条例で除草の指導や勧告を行っている例もあります。
行政からの働きかけこれは仕組みとして定められています。農地法30条1項は「農業委員会は、農林水産省令で定めるところにより、毎年一回、その区域内にある農地の利用の状況についての調査(以下「利用状況調査」という。)を行わなければならない」としています。
続く32条1項は、その結果として次のいずれかに該当する農地があるとき、所有者等に対して利用意向調査を行うものとしています。
一 現に耕作の目的に供されておらず、かつ、引き続き耕作の目的に供されないと見込まれる農地
二 その農業上の利用の程度がその周辺の地域における農地の利用の程度に比し著しく劣つていると認められる農地(前号に掲げる農地を除く。)
さらに35条・36条により、農業振興地域内の農地については農地中間管理機構との協議の申入れや、協議すべきことの勧告へ進む仕組みがあります。「放置していれば誰も気づかない」という前提は成り立ちません。
課税上の取扱いの変化農業振興地域内にある遊休農地のうち、協議の勧告を受け、翌年1月1日の時点でも勧告が撤回されていない農地については、固定資産税の評価で用いる限界収益修正率0.55が適用されません。その結果、評価額が通常の農地と比べておよそ1.8倍になる仕組みです。実際の税額は課税標準額などによって決まります。税負担の考え方は農地を放置すると税金はどうなるのかで整理しています。
工作物や樹木による責任民法では、土地の工作物の設置または保存に瑕疵がある場合、および竹木の栽植または支持に瑕疵がある場合について、それによって他人に損害が生じたときの責任が定められています。占有者と所有者が異なる場合、占有者が必要な注意をしていたときは所有者が賠償の責任を負うとされ、所有者については免責の規定が置かれていません。 古い擁壁やブロック塀、倒木のおそれのある樹木がある土地では、注意が必要です。
原状回復の費用が増えること荒れた期間が長いほど、草丈が伸び、木が育ち、搬出する量が増えます。樹木が育ってしまえば伐採が伴い、通常の草刈りとは別の作業になります。
対策の方向は4つ
| 方向 | 向いている状況 | 主なハードル |
|---|---|---|
| 自分で管理を続ける | 通える距離にあり、当面は所有を続けたい | 費用と時間が毎年かかる |
| 他者に貸す | 周辺に耕作する人がいる | 借り手の要件、農地の状態 |
| 転用を検討する | 接道や周辺環境に需要がある | 農地転用の許可、区域の制限 |
| 手放す | 方針として所有をやめたい | 買主の要件、境界、費用 |
自分で管理を続ける
草刈り、巡回、不法投棄の確認などを、自分で行うか業者に委託します。委託先としては、シルバー人材センター、造園業者、便利屋などがあります。
費用は面積、傾斜、草丈、刈った草の搬出量によって大きく変わるため、一律の目安をお示しすることができません。個別に見積りを取っていただく必要があります。補助制度が使えるかについては耕作放棄地の草刈りに補助金は使えるのかで整理しています。
この方向は、安全確保や近隣への影響を抑えるためには有効ですが、名義・境界・今後の方針といった問題が解決するわけではありません。費用だけが毎年出ていく状態が続く点は、あらかじめ理解しておく必要があります。
他者に貸す
農地中間管理機構(農地バンク)を通じて貸す方法や、農地法第3条の許可を受けて直接貸す方法があります。農地バンクへ貸し付けた場合の課税上の取扱いには特例が設けられていることがありますが、要件や適用年度は変わります。 適用の可否は農業委員会または区役所税務課へご確認ください。 無許可だった場合の効果と罰則は農地法とはにまとめています。
ただし、申し込めばどの農地でも借り受けてもらえるわけではありません。長く耕作されていない土地、区画が小さく機械が入りにくい土地、水利の便が悪い土地では、借り手が付かないことがあります。まずは管轄の農業委員会または市町村の農政担当へご相談ください。
転用を検討する
農地を農地以外の用途にするには農地転用の手続きが必要です。市街化調整区域内の農地の場合、届出では足りず原則として許可が必要になります。認められるかどうかは農地区分による立地基準や周辺への影響などを踏まえて判断されるため、農業委員会への照会が必要です。
市街化調整区域の農地については市街化調整区域の農地をお持ちの方へで、手放す方向で検討する場合は市街化調整区域の農地を手放したいと考えたときに確認することで整理しています。転用先として太陽光発電を検討する場合は農地に太陽光発電を設置できるかの見極め方をご覧ください。
手放す
売却、譲渡、相続土地国庫帰属制度の利用といった方向があります。いずれも名義と境界が整理されていることが前提になる場面が多く、準備に時間がかかります。
まず現況を把握することから
どの方向を選ぶにしても、出発点は現況の把握です。
- 名義は誰になっているか
- 市街化区域か市街化調整区域か、農用地区域に入っているか
- 実際にどの程度荒れているか、残置物や工作物はあるか
- 接道はどうなっているか
- 境界標は残っているか
これらが分かると、取りうる方向が絞り込めます。逆に、これが分からないままでは、業者に見積りを頼むことも、貸付や売却の相談をすることも進みません。
管理の負担を減らす方法全般については草刈り・管理の負担を減らしたい方へで整理しています。
まとめ
耕作放棄地の対策は、「草を刈るかどうか」の問題に見えて、実際には所有をどうするかの問題です。管理を続ける・貸す・転用する・手放すという4つの方向があり、どれが取れるかは土地の条件で決まります。
どの方向を選ぶにしても、まず現況の把握から始まります。方針が決まっていない段階でも、現況を確認しておくことに意味があります。
荒れた状態からでも、現況の整理からご相談いただけます
名義・区域・現況について、公開情報で確認できることと、窓口への照会が必要な項目を無料で整理してお伝えします。
お電話でのご相談: 03-6869-4326(受付 平日10:00〜17:00)
本記事は制度の一般的な内容をご説明するものです。個別の土地について何が可能かは、区域区分・農地区分・現況・権利関係等により異なります。管理作業の費用は業者ごとに異なるため、実際の見積りをご確認ください。税務の個別判断は税理士、法的判断は司法書士・弁護士の領域です。記載内容は2026年8月時点の情報に基づきます。
自分の農地がどの区域か
課税の措置も、機構との協議も、対象は農業振興地域内の農地です。 ご自身の農地が該当するかは、eMAFF農地ナビまたは管轄の農政事務所で確認できます。
当サイトでeMAFF農地ナビの公表データ(横浜市内 32,259筆)を集計したところ、農振法区分は次のとおりでした。 区別の筆数や地目の内訳は横浜市の農地データをご覧ください。
| 農振法区分 | 筆数 | 割合 |
|---|---|---|
| 設定なし | 20,975 | 65.0% |
| 農用地区域内(青地) | 11,283 | 35.0% |
公表されている農地のうち、およそ3件に1件が農用地区域内です。集計は公表分に限られ、市街化区域内の農地は含まれません(出典:eMAFF農地ナビ 公表データ、2026年8月13日取得)。
地番からの調べ方は自分の農地の地番・場所が分からないときの調べ方で整理しています。
よくあるご質問
耕作していないと、行政から連絡が来ますか。
農地法30条により、農業委員会は毎年一回、区域内の農地の利用状況調査を行うこととされています。耕作されておらず、引き続き耕作されないと見込まれる農地などについては、32条の利用意向調査が行われます。
放置すると罰則がありますか。
耕作しないこと自体に罰則の定めはありません。ただし農業振興地域内の農地で機構との協議を勧告され、翌年1月1日時点で撤回されていない場合、固定資産税の評価で用いる限界収益修正率0.55が適用されず、評価額がおよそ1.8倍になります。
何年放置すると耕作放棄地になりますか。
年数で機械的に決まるものではありません。農地法32条は「現に耕作の目的に供されておらず、かつ、引き続き耕作の目的に供されないと見込まれる農地」などを利用意向調査の対象としています。
草を刈っていれば大丈夫ですか。
草刈りは近隣への影響や原状回復の費用を抑えるうえで有効ですが、名義・境界・今後の方針が解決するわけではありません。費用が毎年出ていく状態は続きます。
農地バンクに出せば必ず借りてもらえますか。
申し込めばどの農地でも借り受けてもらえるわけではありません。長く耕作されていない土地、区画が小さく機械が入りにくい土地、水利の便が悪い土地では、借り手が付かないことがあります。
まず何から確認すればよいですか。
地番、区域区分、農用地区域に入っているか、現況の4点です。方向を決める前の共通の材料になります。









