農地を相続したら、手続きは2か所で必要です。 法務局への相続登記と、農業委員会への届出です。
どちらにも10万円以下の過料の定めがあります。 登記を済ませても届出は不要になりませんし、その逆もありません。ここを取り違えると、片方だけ終わらせて安心してしまうことになります。
この記事では、条文にもとづいて2つの手続きの期限・費用・進め方を整理します。
手続きは法務局と農業委員会の2か所です
| 手続き | 根拠 | 期限 | 怠った場合 |
|---|---|---|---|
| 相続登記(所有権移転登記) | 不動産登記法76条の2第1項 | 取得を知った日から3年以内 | 10万円以下の過料(同法164条1項) |
| 農地法3条の3の届出 | 農地法3条の3 | 条文は遅滞なく(案内は情報源により分かれます。下記参照) | 10万円以下の過料(同法69条) |
法務局と農業委員会は別の機関です。 両方が必要になる点を最初に押さえてください。
相続登記は3年以内です
不動産登記法76条の2第1項は次のとおりです。
所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。
起算点は「死亡した日」ではなく、「相続の開始を知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日」です。同法164条1項により、正当な理由がないのに申請を怠ると10万円以下の過料の対象となります。
見落とされやすいのは、この義務が過去の相続にも及ぶ点です。義務化より前に発生した相続についても対象となり、その場合の猶予期限は原則として2027年3月31日とされています。
「父が亡くなったのは10年前だが、田畑はそのままにしている」「祖父の名義から動いていない」という状態にある場合、残された時間は限られています。
遺産分割がまとまらないときの手段があります
遺産分割の話し合いがつかなくても、申請義務がなくなるわけではありません。 この場合に使えるのが、不動産登記法76条の3の「相続人である旨の申出」(相続人申告登記)です。
前条第一項に規定する期間内に前項の規定による申出をした者は、同条第一項に規定する所有権の取得〔中略〕に係る所有権の移転の登記を申請する義務を履行したものとみなす。
自分が相続人であることを登記官に申し出れば、いったん申請義務を履行したものとみなされます。 ただしこれは義務の履行とみなされるだけで、名義が移るわけではありません。同条4項により、その後の遺産分割で所有権を取得したときは、分割の日から3年以内に移転登記を申請する必要があります。
費用は評価額に応じて決まります
相続による所有権移転登記の登録免許税は、不動産の価額の1,000分の4(0.4%)です。課税標準となる「不動産の価額」は、原則として固定資産課税台帳に登録された価格です。
出典:国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」(2026年8月13日確認)
免税措置もあります。 相続により土地を取得した個人が、その移転登記を受ける前に死亡した場合、令和9年3月31日までは、その死亡した個人を登記名義人とするために受ける登記に登録免許税が課されません。数次相続で世代をさかのぼって登記するときに関係します。
このほか、戸籍等の取得費と、司法書士へ依頼する場合の報酬が別に発生します。
農業委員会への届出は「遅滞なく」です
ここが農地に特有の点です。農地法3条の3は次のとおりです。 無許可だった場合の効果と罰則は農地法とはにまとめています。
農地又は採草放牧地について第三条第一項本文に掲げる権利を取得した者は、同項の許可を受けてこれらの権利を取得した場合〔中略〕を除き、遅滞なく、農林水産省令で定めるところにより、その農地又は採草放牧地の存する市町村の農業委員会にその旨を届け出なければならない。
条文上の期限は「遅滞なく」です。 ただし案内は情報源によって分かれます。農林水産省は周知資料で「相続発生日からおおむね10か月以内に届出が必要です」としている一方、横浜市中央農業委員会は「相続の日から届出までの期日は特に定めはありません」と案内しています。
期日の定めがないという案内は、届出が不要という意味ではありません。詳しくは農地を相続したら農業委員会へ届出が必要です(農地法3条の3)で整理しています。
農地法69条により、届出をせず、または虚偽の届出をした場合は10万円以下の過料に処するとされています。同資料も「届出を行わなかった場合、10万円以下の過料が科される可能性があります」「本届出は、法務局への相続登記とは別に必要な手続です」と明記しています。
あわせて押さえておきたい点があります。 同資料は、相続したものの地元を離れていて管理ができない場合には、農業委員会が管理の相談や借り手を探す手伝いをするとも案内しています。届出は義務であると同時に、相談の入口でもあります。
出典:農林水産省「農地を相続したときは、届出が必要です(農地法第3条の3)」(2026年8月13日確認)
横浜市は「平成21年12月15日以降に相続等によって農地を取得した人は、農地のある農業委員会に届出が必要」と案内しており、詳細は各農業委員会へ問い合わせるよう示しています。具体的な提出時期や様式は、管轄の農業委員会へご確認ください。
横浜市には農業委員会が2つあります
土地のある区によって届出先が変わります。
| 農業委員会 | 管轄区 |
|---|---|
| 横浜市中央農業委員会 | 鶴見・神奈川/保土ケ谷・旭・港北/緑・青葉・都筑 |
| 横浜市南西部農業委員会 | 西・中・南・港南/磯子・金沢・戸塚/栄・泉・瀬谷 |
出典:横浜市「農地の権利移動」(2026年8月13日確認)
複数の区に農地がある場合は、届出先が分かれることがあります。届出の詳細は農地を相続したら農業委員会へ届出が必要です(農地法3条の3)で整理しています。
進め方
相続登記は、おおむね次の順で進みます。
- 相続人を確定する — 被相続人の出生から死亡までの戸籍と、相続人の戸籍を集めます。転籍が多い場合や代替わりが重なっている場合は、収集に時間がかかることがあります
- 相続財産を把握する — 登記事項証明書、固定資産税の課税明細書、名寄帳で対象不動産を洗い出します
- 分け方を決める — 遺言があればそれに従います。遺言がない場合、相続人全員で分け方を決めて遺産分割協議書を作成するほか、法定相続分どおりに登記する方法もあります。どの形をとるかで必要書類が変わります
- 登記を申請する — 必要書類をそろえて法務局へ申請します
- 農業委員会へ届出をする — 土地の所在地を管轄する農業委員会へ届け出ます
2で注意が要ります。 固定資産税には免税点があり、下回ると課税されません。地方税法351条は土地について30万円としています。
横浜市では、この判定単位が「同一区内」です。 横浜市市税条例43条は次のとおり定めています。
同一区内に、所有する土地、家屋又は償却資産に対して課する固定資産税の課税標準となるべき額が、土地にあっては300,000円、家屋にあっては200,000円、償却資産にあっては1,500,000円に満たない者に対しては、その土地、家屋又は償却資産に対する固定資産税を課さない。
横浜市も「同一区内で同一の人が所有する土地・家屋について、それぞれの課税標準額の合計が、免税点(土地30万円・家屋20万円)未満であれば、固定資産税は課税されません」と案内しています。
区をまたいで農地を持っている場合、区ごとに判定されます。 一方の区の合計が免税点を下回れば、その区の土地には固定資産税が課されません。
課税されない土地が課税明細書にどう記載されるかは、自治体の様式によります。明細書だけを見て「これで全部」と判断せず、名寄帳や登記情報でも確認してください。
出典:横浜市市税条例、横浜市「固定資産税(土地・家屋)・都市計画税(概要)」(いずれも2026年8月13日確認)
必要書類はケースによって変わります。 法務局は申請書の様式と記載例を公開しており、相続登記についても遺産分割・遺言・法定相続分といったパターンごとに用意されています。
出典:法務局「不動産登記の申請書様式について」(2026年8月13日確認)
同ページでは、相続登記の申請にあたり「相続関係説明図」を戸籍全部事項証明書等と一緒に提出した場合、登記の調査終了後に戸籍等の原本を返してもらえることも案内されています。戸籍は他の手続きでも使うため、原本還付の可否は確認しておく価値があります。
実際に何をそろえるかは、様式ページの該当パターンを見るか、司法書士にご確認ください。
名義が祖父母の代のままの場合
相続登記がされないまま次の相続が起きると、相続人の数が増えていきます。これを数次相続といいます。
祖父の名義のままで父も亡くなっている、といった状態では、祖父の相続人と父の相続人の両方を確定する必要があり、面識のない親族が相続人に含まれることもあります。関係者が増えるほど、合意形成にも書類の収集にも時間がかかります。
この場合、前述の相続人申告登記と、登録免許税の免税措置が関係してきます。時間はかかりますが、手段はあります。
兄弟間で話がまとまらない場合の進め方は農地の相続で兄弟の意見がまとまらないときで、農業を継がない立場で相続した場合の全体像は農業をしない人が農地を相続したら何から始めるかで整理しています。共有名義になっている場合は共有名義の農地で起きる問題と整理の進め方をご覧ください。
よくあるご質問
農地の名義変更はいつまでにすればよいですか。
相続登記は不動産登記法76条の2第1項により、相続の開始を知り、かつ所有権を取得したことを知った日から3年以内です。農業委員会への届出は農地法3条の3で「遅滞なく」とされ、農林水産省は相続発生日からおおむね10か月以内と案内しています。期限が別々である点にご注意ください。
登記だけしておけばよいですか。
いいえ。法務局への登記と農業委員会への届出は別の手続きで、どちらにも10万円以下の過料の定めがあります(不動産登記法164条1項、農地法69条)。
名義変更の費用はいくらですか。
相続による所有権移転登記の登録免許税は不動産の価額の1,000分の4です(2026年8月時点)。課税標準は原則として固定資産課税台帳に登録された価格です。このほか戸籍等の取得費と、司法書士へ依頼する場合の報酬がかかります。
遺産分割がまとまりません。過料の対象になりますか。
不動産登記法76条の3の相続人申告登記により、期間内に申し出れば申請義務を履行したものとみなされます。ただし名義が移るわけではなく、分割成立後3年以内にあらためて移転登記が必要です。
20年前に亡くなった祖父の名義のままです。対象になりますか。
義務化前に発生した相続も対象で、猶予期限は原則として2027年3月31日とされています。数次相続では登録免許税の免税措置(令和9年3月31日まで)が関係することがあります。
手続きを代わりにやってもらえますか。
登記の申請手続きは司法書士の業務であり、当サイトでは行っていません。ご状況を伺い、必要に応じて司法書士をご案内します。
担当する専門家が分野ごとに違います
登記の申請手続きは司法書士の業務です。当サイトは登記の代理を行いません。
農地転用の許可申請は行政書士、測量や境界確定は土地家屋調査士、相続税など税務は税理士、相続人間で争いがある場合は弁護士と、分野ごとに担当が異なります。どの段階で誰に依頼することになるのかを先に把握しておくと、費用と時間の見通しが立てやすくなります。
まず確認すべきは、いま名義がどうなっているかです。それが分かれば、次に必要な手続きと相談先が決まります。相続後の全体の流れは農地を相続された方へで整理しています。
名義がどうなっているか分からない、という段階からご相談いただけます
お手元の資料をもとに、現在わかること、追加で確認すべきこと、依頼先となる専門家を整理してお伝えします。
お電話でのご相談: 03-6869-4326(受付 平日10:00〜17:00)
本記事は制度の一般的な内容をご説明するものです。個別の手続きに何が必要かは、相続関係・遺言の有無・登記の状況によって異なります。登記申請は司法書士、許認可申請は行政書士、税務は税理士がそれぞれ担当します。当サイトはこれらの手続きを代理するものではなく、必要に応じて各専門家をご紹介します。記載内容は2026年8月時点の情報に基づきます。









