農業をしない人が農地を相続したら何から始めるか

農業をしない人が農地を相続したら何から始めるか

農業をするつもりはないのに、農地を相続することになった。何から始めればよいか分からない方に向けた記事です。

農業をしない人が農地を相続したら、名義・区域・現況の3点を確認することから始まります。 この3点が分かると、使う・貸す・手放すのどれが現実的かが絞り込めます。

農業の知識がなくても確認できる項目です。 窓口へ相談する際も、この3点が手元にあると話を進めやすくなります。

目次

農業をしないまま農地を持っている状態は、統計にも表れています

農地を相続した人が、必ずしも農業をするわけではありません。会社勤めを続けている、住んでいる場所が離れている、体力的に難しい——事情はさまざまです。

農林水産省の調査では、令和6年3月末時点の全国の荒廃農地は25.7万ヘクタールにのぼります。発生の理由として挙げられているのは、所有者側では高齢化・病気・死亡、担い手や労働力の不足、土地側では自然条件が悪いことなどです。

また、相続未登記農地とそのおそれのある農地は、令和3年度末の調査で約102万ヘクタール、全農地の約2割にのぼり、そのうち約5万7千ヘクタールが遊休農地となっていました。

手放す側の統計もあります。 法務省が公表する相続土地国庫帰属制度の統計では、令和8年6月30日現在(速報値)の申請5,698件のうち、地目別で最も多いのは田・畑の2,226件でした。同制度で実際に国庫帰属となった2,885筆のうち、農用地は925筆です(2026年8月13日確認)。

出典:法務省「相続土地国庫帰属制度の統計」(2026年8月13日確認)

農地を受け継いだものの使えていない、という状態は、全国的に起きていることです。

「使わない」という選択がしにくい理由

宅地であれば、使わないまま持ち続けることも一つの選択です。農地の場合、それが難しくなる事情があります。

利用状況の調査があります。 農地には農業委員会による利用状況調査が毎年行われています。耕作されていない、あるいは十分に利用されていないと判断された農地については、所有者に対して利用意向調査が行われ、状況が改善しない場合には農地中間管理機構との協議を勧告することがあります。

課税上の取扱いが変わる場合があります。 農業振興地域内にある遊休農地のうち、この協議の勧告を受け、翌年1月1日の時点でも勧告が撤回されていない農地については、固定資産税の評価で用いる限界収益修正率0.55が適用されません。その結果、評価額が通常の農地と比べておよそ1.8倍になる仕組みです。実際の税額は課税標準額などによって決まります。

農業委員会への届出があります。 農地法3条の3は、相続等により農地の権利を取得した者に、農業委員会への届出を求めています。条文は「遅滞なく」としており、農林水産省の資料では「おおむね10か月以内」という目安が示されています。一方、横浜市中央農業委員会は期限について特に定めはないとしています。管轄の農業委員会へ確認してください。 手続きの詳細は農地の相続で名義変更(相続登記)を進める手順で整理しています。 許可の種類と許可権者の違いは農地法の3条・4条・5条をご覧ください。

近隣への影響があります。 草木が伸びれば隣地へ越境し、害虫や不法投棄の問題につながることがあります。自治体によっては条例で除草の指導や勧告を行っている例もあります。

登記の義務があります。 相続登記は2024年4月1日から義務化されており、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請しないと、正当な理由がなければ10万円以下の過料の対象となります。

まず確認する3つのこと

農業の知識がなくても、次の3点は確認できます。ここが出発点になります。

1. 名義登記上の所有者が誰になっているかを確認します。亡くなった親や祖父母の名義のままになっている場合、まず相続登記が必要になります。手続きの流れは農地の相続で名義変更(相続登記)を進める手順で整理しています。

2. 区域市街化区域か市街化調整区域か、農業振興地域の農用地区域に入っているか。これによって、その後に取れる選択肢の幅が変わります。横浜市の場合、市内の農地2,850ヘクタールのうち2,352ヘクタールが市街化調整区域内にあり、面積ベースで約82%を占めます(いずれも令和2年時点)。

3. 現況実際に耕作されているか、荒れているか。残置物や工作物があるか。接道はどうか。登記上の地目と実際の状況が一致していない場合があります。

現況は、その後の選択肢を左右します。 相続土地国庫帰属制度では、令和8年6月30日現在(速報値)の不承認93件のうち「土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地」が45件と最も多く、却下83件では「境界が明らかでない土地」が21件でした(件数が最も多いのは添付書類の提出がなかったもので37件。2026年8月13日確認)。残置物と境界は、手放す方向を検討する場合に先に効いてきます。

農地の所在や地番、面積は、農林水産省のeMAFF農地ナビで調べ始めることもできます。ただし地図上の表示だけで判断はできず、区域や規制の詳細は管轄窓口への確認が必要です。

そこから分かれる3つの道

農業をしない人が農地を相続したときの3つの道を示した図。使う(自分または家族が耕作を続ける/現実的に続けられるか)、貸す(耕作する人・農地バンクへ貸す/借り手の有無、農地の状態)、手放す(売却・譲渡・国庫帰属/買主の要件、境界、費用)

3点が分かると、選択肢が絞り込めます。

方向内容確認が必要なこと
使う自分または家族が耕作を続ける現実的に続けられるか
貸す耕作する人・農地バンクへ貸す借り手の有無、農地の状態
手放す売却・譲渡・国庫帰属買主の要件、境界、費用

使う — 続けられるのであれば、農地法上の許可や届出を新たに要する場面が少ない選択です。ただし遠方に住んでいる場合や体力的に難しい場合、無理に続けると管理が滞り、結局は荒廃につながることがあります。

貸す — 農地中間管理機構(農地バンク)を通じて貸す方法や、農地法第3条の許可を受けて直接貸す方法があります。ただし、申し込めばどの農地でも借り受けてもらえるわけではありません。周辺に担い手がいるか、農地の状態が耕作可能かによって扱いが変わります。

手放す — 農地のまま売る場合は買主に農地法第3条の許可要件があり、転用して売る場合は区域と農地区分によって手続きが変わります。詳しくは相続した農地は売却できるのかで整理しています。

市街化調整区域の農地については、市街化調整区域の農地をお持ちの方へで、区分の調べ方から活用・売却・手放し方までをまとめています。

迷ったときの整理のしかた

どれを選ぶか決められない、という状態は珍しくありません。そのときは、判断を先に決めようとせず、次の順で情報をそろえることをおすすめします。

  1. 手元の資料を集める — 固定資産税の課税明細書、権利証、登記事項証明書、公図
  2. 確認できることを確認する — 名義、区域、地目、面積は資料と公開情報から分かります
  3. 窓口に照会が必要な項目を洗い出す — 農地区分、転用の可否は農業委員会への照会が必要です
  4. 家族と共有する — 相続人が複数いる場合、同じ情報を見ながら話すほうが進みます

負担をどう減らすかを先に考えたい場合は、草刈り・管理の負担を減らしたい方へもご覧ください。使う予定がなく手放す方向で考えている場合は、相続した農地が「いらない」と感じたときの選択肢で方向ごとの整理をしています。

まとめ

農業をしないまま農地を相続した場合、最初にすべきことは方針を決めることではなく、名義・区域・現況を確認することです。この3点が分かれば、使う・貸す・手放すのどれが現実的かが見えてきます。

相続後に必要な手続きの全体像は農地を相続された方へで整理しています。

何から手をつければよいか分からない段階でご相談ください

お手元の資料をもとに、名義・区域・現況について現在わかることと、次に確認すべきことを整理してお伝えします。

お電話でのご相談: 03-6869-4326(受付 平日10:00〜17:00)

本記事は制度の一般的な内容をご説明するものです。個別の土地について何が可能かは、区域区分・農地区分・権利関係等により異なります。登記申請は司法書士、許認可申請は行政書士、税務は税理士がそれぞれ担当します。当サイトはこれらの手続きを代理するものではなく、必要に応じて各専門家をご紹介します。記載内容は2026年8月時点の情報に基づきます。

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この記事を書いた人

横浜市周辺の農地・市街化調整区域の土地について、国や自治体が公表している情報をもとに、所有者の方がまず確認すべきことを整理して発信しています。登記・許認可・測量・税務・売買の各手続きは、それぞれの分野の専門家と連携して進めます。

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