隣の空き地の草を勝手に刈ってもよいか【法律上の考え方】

隣の空き地の草を勝手に刈ってもよいか【法律上の考え方】

隣の空き地の草がこちらまで伸びてきて、いっそ自分で刈ってしまおうかと考えていませんか。その前に知っておきたい、法律上の整理をまとめました。

隣の空き地の草を勝手に刈るのは避けてください。 使われていないように見えても私有地であり、無断で立ち入って刈ると、刑法261条の器物損壊や民法709条の損害賠償の問題になり得ます。

意外に見落とされるのが、民法は隣地に入ってよい目的を3つに限定列挙していて、そこに「草を刈るため」が入っていないという点です。

一方で、境界を越えてきた「根」は切り取れます。「枝」は原則として切れません。 同じ植物でも扱いが分かれます。

この記事では、条文にもとづいて何ができて何ができないかを整理します。

目次

勝手に刈ると何が問題になるか

行為関係する条文内容
無断で草木を切る刑法261条(器物損壊等)3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金もしくは科料
切ったことで損害が出た民法709条(不法行為)故意または過失により生じた損害の賠償責任
無断で立ち入る民法209条(隣地の使用)使用できる目的が限定されている(後述)

刑法261条は次のとおりです。

前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

「困っていたから」「良かれと思って」は、無断で切ってよい根拠になりません。 相手が問題視すれば争いになり得ます。

境界付近では、草の根元がどちら側にあるか分かりにくいこともあります。塀や日常的な利用範囲が、法律上の境界と一致するとは限りません。 刈る前に場所と所有関係を確かめてください。

隣地に入れるのは3つの目的だけです

民法209条1項で隣地に入れる3つの目的を示した図。工作物の築造・収去・修繕(境界またはその付近における障壁、建物など)、境界標の調査と境界に関する測量、枝の切取り(民法233条3項の規定による場合)。3つの目的の中に草を刈るためは含まれない

ここが最も誤解されている点です。 民法209条1項は、隣地を使用できる場合を次のように定めています。

土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない。

一 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕

二 境界標の調査又は境界に関する測量

三 第二百三十三条第三項の規定による枝の切取り

3つの目的の中に「草を刈るため」はありません。 3号も「枝の切取り」に限られています。つまり、隣地の草刈りを目的とした立入りには、この条文の根拠がありません。

立ち入れる場合でも条件があります。同条2項は、日時・場所・方法について「隣地の所有者及び隣地使用者のために損害が最も少ないもの」を選ばなければならないとしています。同条3項は、あらかじめ目的・日時・場所・方法を通知する義務を定めています(あらかじめ通知することが困難なときは、開始後遅滞なく通知)。同条4項により、相手が損害を受けたときは償金を請求できます。

枝と根で扱いが違います

民法233条は、枝と根を分けて定めています。枝と根で結論が逆になるため、区別せずに手を出すと問題になり得ます。

条文できること
が越境233条1項竹木の所有者に切除させることができる(自分では切れないのが原則)
が越境233条4項自分で切り取ることができる

条文は次のとおりです。

第二百三十三条 土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。

〔中略〕

4 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。

枝は「切除させる」であって「切ってよい」ではありません。 根だけが自分で切り取れる形になっています。

ただし根を切る場合も、切除によって木が倒れるなど大きな損害が生じる可能性があります。実際の対応では樹木の状態と安全を確認し、所有者との話し合いを優先してください。雑草一般がすべて竹木の枝や根の規定と同じ扱いになるとは限りません。

枝を自分で切れる3つの例外

2023年4月1日施行の改正により、枝についても例外が設けられました。民法233条3項です。

第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。

一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。

二 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。

三 急迫の事情があるとき。

「連絡したが返事がない」だけで直ちに1号を満たすとは限りません。 1号は「催告」と「相当の期間」を要件としています。催告の内容と時期を記録し、相当の期間や急迫性の判断に迷うときは弁護士へご確認ください。切る範囲、費用、安全確保についても争いが生じる可能性があります。

なお同条2項により、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者が枝を切り取ることができるとされています。

まず所有者へ伝えることから始めます

手順としては、所有者への連絡が出発点になります。

  1. 越境している場所、通行や生活への影響、希望する対応期限を、写真とともに穏やかに伝える
  2. 連絡先が分からない場合は、法務局で登記事項証明書を取得して所有者を確認する
  3. 登記上の住所から移転していることもあるため、届かない場合は区役所へ相談する
  4. やりとりの内容と日付を記録に残す

管理不全の空家を伴う土地では、横浜市が現地確認や所有者への自主改善の働きかけを行う場合があります。空き地のみの場合を含め、区役所へ状況を伝えて担当窓口を確認してください。

市が私有地の草を代わりに刈ることを前提にはできません。 この点は空き地の草刈りは市役所に頼めるかで整理しています。所有者側の立場で通知を受け取った場合の対応は役所から雑草の通知・指導が来たときの対応をご覧ください。

緊急性がある場合

草木が道路の見通しを遮る、電線に触れそう、倒木の危険があるなど、人身や交通に関わる状況では、自分で対処せず担当機関へ連絡してください。 道路管理者、電力会社、消防・警察など、状況に応じた窓口があります。場所と写真を示すと伝わりやすくなります。

枯れ草が広がっている場合の火災リスクは枯れ草の火災リスクと土地所有者の責任で整理しています。

承諾を得て刈る場合

所有者から草刈りの承諾を得られた場合は、どの範囲を、誰が、いつ、どの方法で刈るかを確認します。刈草の処分、樹木や設備を傷つけた場合の扱い、作業中の事故についても認識をそろえてください。口頭だけでなく、メールや書面で記録を残すと行き違いを減らせます。

業者へ依頼するなら、土地所有者が契約するのか、近隣側が承諾を得て契約するのかを明確にします。境界標、配管、電線、井戸、石など、機械作業の支障物も事前に伝えます。

越境が繰り返される場合は、一度の切除だけでなく、今後の剪定時期や連絡先を話し合ってください。費用負担や損害の扱いで合意できないときは、自分だけで判断せず、民事調停や弁護士への相談など法的な手段を検討します。

よくあるご質問

他人の土地の草を勝手に刈るとどうなりますか。

刑法261条の器物損壊にあたる可能性があり、3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金もしくは科料と定められています。あわせて民法709条により損害賠償の問題になり得ます。

空き地で誰も使っていないようです。それでも駄目ですか。

使われていないように見えても所有者のいる私有地です。民法209条1項が隣地を使用できる目的を3つに限定しており、そこに草刈りは含まれていません。

越境してきた枝は切ってよいですか。

原則として切れません。民法233条1項は「その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる」と定めています。同条3項の3つの例外(催告後も切除しない/所有者を知ることができない・所在不明/急迫の事情)に当たる場合に限り、自分で切り取れます。

根はどうですか。

民法233条4項により、境界線を越えた根は切り取ることができます。枝とは扱いが異なります。ただし切除で木が倒れるおそれもあるため、状態の確認と話し合いを優先してください。

所有者に連絡したのに返事がありません。切ってよいですか。

返事がないことだけで233条3項1号を満たすとは限りません。同号は「催告」と「相当の期間」を要件としています。判断に迷う場合は弁護士へご確認ください。

自分の敷地内だけを刈る分には問題ありませんか。

ご自身の土地の範囲であれば問題ありません。ただし境界を越えないよう注意してください。塀の位置が法律上の境界と一致しないことがあります。

確認の順序

緊急性がない場合は、次の順で進めると行き違いが起きにくくなります。

  1. 境界と所有関係を確かめる(塀の位置=境界とは限りません)
  2. 所有者または管理者へ連絡し、記録を残す
  3. 対応がない場合は区役所へ相談する
  4. 枝の切取りを検討する場合は、233条3項の要件に当たるかを弁護士へ確認する
  5. 承諾を得られたら、範囲・費用・責任の所在を書面で確認する

土地の管理と所有者への連絡方法を整理したい場合は、状況を確認のうえ相談先をご案内します。ご自身が所有する農地・空き地の管理でお困りの場合は、農地の草刈り・管理の負担を減らしたい方へをご覧ください。

本記事は法令の一般的な内容をご説明するものです。個別の事案について切除の可否や責任の所在を判断するものではありません。実際の対応は弁護士にご相談ください。当サイトは法律事務を取り扱うものではありません。記載内容は2026年8月時点の情報に基づきます。

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この記事を書いた人

横浜市周辺の農地・市街化調整区域の土地について、国や自治体が公表している情報をもとに、所有者の方がまず確認すべきことを整理して発信しています。登記・許認可・測量・税務・売買の各手続きは、それぞれの分野の専門家と連携して進めます。

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